周辺暮らしのロケンロール

関東を中心に活動中のごちゃまぜロックバンド、五十嵐正史とソウルブラザーズの公式ブログ

にぶはしりせん 

2014/02/10
Mon. 22:41

先日のブログで、竹内浩三の作品に「ひたぶる」という言葉が頻出することを書いた。

今日は、その作品中で「ひたぶる」に続く語であり、これもまた竹内浩三らしい言葉、もしかしたら彼の造語かしらんと思われる“鈍走(にぶはし)りせん”を紹介したい。まずはその言葉がタイトルの散文詩を。

「鈍走記」 竹内浩三

生れてきたから、死ぬまで生きてやるのだ。
ただそれだけだ。

日本語は正確に発音しよう。白ければシロイと。

ピリオド、カンマ、クエッションマーク。
でも、妥協はいやだ。

小さな銅像が、蝶々とあそんでいる。彼は、この漁業町の先覚者であった。

四角形、六角形。
そのていたらくをみよ。

バクダンを持って歩いていた。
生活を分数にしていた。

恥をかいて、その上塗りまでしたら、輝きだした。

おれは、機関車の不器用なバク進ぶりが好きだ。

もし、軍人がゴウマンでなかったら、自殺する。

目から鼻へ、知恵がぬけていた。

みんながみんな勝つことをのぞんだので、負けることが余りに余った。それをことごとく拾い集めた奴がいて、ツウ・テン・ジャックの計算のように、プラス・マイナスが逆になった。

××(戦争)は、×(悪)の豪華版である。

××(戦争)しなくても、××(建設)はできる。

哲学は、論理の無用であることの証明に役立つ。

女はバカな奴で、自分と同じ程度の男しか理解できない。しようとしない。

今は、詩人の出るマクではない。ただし、マスク・ドラマなら、その限りにあらず。

「私の純情をもてあそばれたのです」女が言うと、もっともらしく聞こえるが、男が言うと、フヌケダマに見える。

注釈をしながら生きていたら、注釈すること自身が生活になった、小説家。

批評家に。批評するヒマがあるなら創作してくれ。

子供は、注釈なしで憎い者を憎み、したいことをする。だから、好きだ。

おれはずるい男なので、だれからもずるい男と言われぬよう極力気をくばった。

おれは、人間という宿命みたいなものをかついで鈍走する。すでに、スタアトはきられた。

どちらかが計算をはじめたら、恋愛はおしまいである。計算ぬきで人を愛することのできない奴は、生きる資格がない。

いみじくもこの世に生れたれば、われいみじくも生きん。生あるかぎり、ひたぶるに鈍走せん。にぶはしりせん。


長くなったが全文引用した。
この詩は、竹内浩三が中心となり仲間たちと作った同人誌“伊勢文学”の第二号(1942年7月1日発行)に掲載された。
中盤の××は、伏字のまま掲載されたが、後年本の余白に書かれていた草稿が見つかり、その伏字が「戦争」「悪」「建設」であったことが判明した。無名の学生が作った同人誌とは言え、治安維持法下戦争が泥沼化する中で、この表現は命がけであったに違いない(特に「建設」は、当時の戦争スローガンであった「大東亜共栄圏建設」への痛烈な皮肉)。

この作品、詩が不定形に続くこともあり、内容も一見統一を欠いているように見え、全体的にややまとまりが無いように思えるが、ぼくはこの作品から竹内浩三の強烈な時代を突き抜けたメッセージを感じる(ただし、女に対する恨み言は、彼のモテなさゆえの稚拙感に満ちていて苦笑してしまうが)。

まず「白ければシロイと」には、侵略戦争を聖戦と誤魔化したことを妄信し、集団戦争ヒステリーに走った烏合の衆(大多数の日本国民)への宣戦布告と読めるし、「みんなが勝つことをのぞんだので…」では、サラリと社会の価値観の逆転を言っている。まるで「今の一位は後でビリッケツになる」(“時代は変わる”より)と、サラリと歌ったボブ・ディランみたいだ。

70年前の日本で、彼は「勝ちだけが必要とされる」価値観を真っ向から否定し、そうではない生き方が、在り方があることを己の作品とその全存在で示した。結局それでアホな日本は1ミリも変わることなくコテンパンにやられ、我らが日の本の腐った歴史や奴隷根性よりも、よっぽど愛さなければいけなかった竹内浩三や多くの命を殺してしまったのだ。

しかし、竹内浩三はそう簡単に日本が変わるとは思っていなかった。だからこそ彼は「にぶはしりせん」と自分の生き方を規定した。鈍走りすることなしに「勝ち至上主義」を引っくり返すことは出来ない。そんな彼のクールで、決して長い者に巻かれなかった稀有な魂を、ぼくは心から敬愛する。

昨日の都知事選を終えて、負けてなお自らの側をこそ民主主義の体現者であると言う者は、その大事であるところの民主主義の負けをしっかり拾い集めて、まずはそれをひたぶる見つめるべきだろう。少なくともその向こう側が見えるまで。
いわんや、目先の勝ちを求め過ぎた側をや。

竹内浩三のメッセージを読むことは、選挙運動よりよっぽど民主主義を生かすために有意義だとぼくは思う。

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